夜間定時制高校の全廃をねらう
  定時制高校検討委員会報告批判

第三次計画による夜間定時制の大幅削減案の白紙撤回を!

2002年7月16日 東京都高等学校教職員組合定時制部都常任委員会声明


 5月23日、都教育庁の「定時制高校検討委員会」は「報告書」を都教委定例会に提出しました。この「報告書」の中心課題は、夜間定時制高校に替わるものとして「新たなタイブの昼夜間定時制独立校」を立ち上げることにあり、敢て「昼夜間」と夜を入れたのは最早、全定併置型の夜間定時制高校の存在を許さないというメッセージなのです。「各学年、最大で10学級規模」と、4学年合わせれば40学級にも達する大規模校化は、その分統廃合の範囲を広げるためで、当面「一定の学級規模を確保」した夜間定時制過程の活性化を図るとはいうものの、「独立校設置」に際し周辺の全定併置の夜間定時制高校から「再編」「解消」すると宣言しているのです。しかも、この委員会は昨年12月から今年3月までの設置期間の中で、合わせて6回の審議をしたのみで、委員長、副委員長とも教育庁関係者が占め、行政主導で予め結論付けられた方向に纏め上げたと言わざるを得ません。夜間定時制高校の役割を十分に踏まえたものであるとは到底言い得ません。以下、章を追って批判を加えます。

◆「夜間定時制課程の現状と課題」
この間生徒数は減少せず、また多くの生徒は昼間就労しています  
 「報告書」には問題点として「減少を続ける生徒数」、正規雇用の勤労青少年の減少など「生徒の多様化」、第一志望ではなかった「不本意入学」、「高い中退率」、卒業者の半分を超える進路未決定者など「進路の状況」、これらが次々と挙げられています。しかしその根拠として示された図表を丁寧に眺めると、少子化の進行にもかかわらず、97年度以降在籍生徒数が13,000人台から減らなくなったこと、時期を同じくして夜間定時制高校を第一志望とする中学卒業予定者が増加し始めたことが読み取れます。これは長引く不況の影響と考えられます。
 さらに生徒の就業状況について1年から4年までを一括して、「正規雇用の勤労青少年の占める割合が1割未満」であると強調しています。しかし、ほぼ全ての都立定時制高校を対象にした定時制部の調査(「定時制高校白書2001」)ではパート、アルバイトを含め就労する生徒は62.3%に達し、学年が上がるごとに何らかの形で働く生徒が増えているのです。そもそも現在の日本社会で中卒者に対する求人が極めて少なく、正規雇用からアルバイトなどへの雇用形態の変化がすすんでいること、しかもそれさえ長期不況の中でままならない状況にあることも考慮されていません。「現在、働いていない」と答えた37.7%の生徒の、働いていない理由の65.1%は「適当な仕事が見つからない」であり、「働く必要がない」と答えた生徒は全体の2.9%にすぎず、不況のなかで、昼間就労し夜間定時制を必要とする生徒は決して少なくないのです。

全日制課程を希望する中学卒業予定者には全日制高校への就学保障を
 「報告書」は「全日制課程の高校への進学を希望しながら、学力不振等の理由により夜間定時制課程に入学してくる、いわゆる不本意入学者が相当の割合になっている」と記述しています。
 たしかに二次募集で定時制に入学する生徒のなかには、推薦や一次で全日制を受け、不合格となった子どもたちがいます。しかしこれは、そういう都立の全日制を希望する子どもたちの受け入れを就学計画が実質として保障していない結果であり、「学力不振等」を不本意入学の理由とするのは、責任を子どもたち、生徒の側に押し付ける教育行政としての恥ずべき責任転嫁の論理ではないでしょうか。それだけ全日制を希望する生徒がいるならば、全ての希望者を(「昼夜間定時制」ではなく)全日制で受けいれられるように条件整備をするべきです。さらに、現在の小・中学校の過大な40人学級のなかで「学力不振等」が生み出されているのであって、早急に高校を含め学級定員を削減し、行き届いた教育ができるように条件整備をすることこそ、教育行政の使命です。現在の「特色化」路線のもとで、学区も廃止され、中学生はさまざまな学校、課程や科のなかから一校を選ばねばならず、多くの生徒に高校進学に関して過重な負担と戸惑い、競争を強いていることも忘れてはなりません。

伝統ある都立高校は全定併置校として歴史を刻んできました
 つぎに「全日制との併置」に関し、「報告書」はさまざまな「制約」について記述しています。
 全日制について、「夜間定時制課程の授業開始時間の関係から、部活動、学校行事、補習の実施等の、全日制課程の放課後の諸活動が制約を受ける」とし、定時制について、生活指導、教科指導が「不十分」とし、「施設の共有による相互の制約」についても指摘しています。
 もともと、定時制高校は勤労学生のみを対象としたものではなく、戦後新たな学校制度のもとで、戦前は狭き門だった後期中等教育を希望する様々なひとびとの就学を保障するために定時制が創設され、多くの新制高校は全定併置校として成立しています。戦後50年以上に渡り、伝統ある都立高校は全定併置校として存続しており、むしろ「施設を共有」する同じ学校であるからこそ、互いの切磋琢磨や学校祭などでの交流を通じて、生徒のあいだにも、社会的な視野を広げ、自分達と異なる立場のものへの理解と寛容の精神をつくりだす教育的効果もあがっています。
これは全日制の生徒にとっても大事なことで、今回の第三次計画でいわゆる「進学重点校」などから定時制をなくしていく動きは、都立の伝統を破壊し、教育の中身を変質させずには置かないでしょう。
 教室、施設の共用という「制約」「トラブル」などは長い歴史のなかで相互の努力で解消してきており、今さらの、ためにする議論です。そもそも、こうした二部制の「課題・制約」を「昼夜間定時制」の三部制にして「解決」する、というのは破綻した論理であり、三部制にすることによって、各部間の「制約」はさらに拡大するでしょうが、後に見るように、この「報告書」はそのことには全く触れいていないのです。

小規模校でも豊かな教育活動を展開しています
 「報告書」は「小規模校の課題」から「学校運営上の課題」について様々に指摘し、例えば「部活動、生徒会活動、文化祭・体育祭等の学校行事が低調になり、集団生活を通して得られる教育効果を十分にあげることができない」としていますが、これも事実に反しています。小規模校であっても、生徒会や学校行事はかえって全員参加で豊かに展開されており、部活動も都大会などで活躍する小規模校も少なくありません。ある定時制単級校で和太鼓部が学校祭や都のフェスティバル、地域のボランティアなどで充実した活動をつづけ、それに触発されて全日制でも和太鼓部が発足したケースもあります。そもそも、サマランカ宣言の指摘するように、多様な子ども達を進んで受け入れるインクルーシブな学校こそ、「万人のための教育を達成する最も効果的な手段」なのであり、現在の都の「特色化」路線の下の全日制高校のように、分断、「序列化」された「均質」な生徒層の集団では、たとえ集団の規模が大きくとも、かえって「集団生活を通して得られる教育効果」は少ないと言うべきではないでしょうか。
 「報告書」は「教員数が少ないため、多様な教育課程を編成・実施することが困難」としていますが、単級校で国の標準法では9人である教科教諭を都は7人としており、これも全く無責任な議論です。小規模校での教員定数を改善し、多様な教育課程のために講師時数など人的な条件整備を早急にすべきです。東京都は「三カ年計画」でも同様の理由で定時制統廃合をおこないましたが、統廃合を学習権の侵害としその見直しを求めた1998年の東京弁護士会の勧告においても、「しかしながら、単級化の弊害として東京都が説明する「教員数が少ないために多様な生徒に対する授業展開が出来ないこと、生徒間に切磋琢磨の機会が少ないこと、学校行事などの教育活動が活発には出来ないこと」などは、教職員と生徒の努力などによつて克服することが十分に可能なものです。」と指摘しています。
さらに、「夜間定時制課程では、教職員数が限られており、学校としての組織的対応が十分にできない状況にある」などと、一方的にきめつけていますが、逆に規模が小さいが故に職員間の意思疎通・合意形成が行われやすく、さまざまな事態に素早く、組織的に対応できるのが小規模校や定時制のメリットなのです。
「報告書」は「全日制課程の高校に比べて、学校に対する地域住民の関心も薄く、交流も少ないため、地域の教育力を生かしにくい」としていますが、これは偏見そのものです。この間の定時制統廃合でほとんどの区議会で統廃合の見直しをもとめた意見書が採択され、都に送られています。これこそ、地域の人々の夜間定時制への関心や期待の高さを示しているのではないでしょうか。

◆「昼間定時制独立校の現状と課題」
「昼間定時制独立校へのニーズが高い」との断定は早計です  
 入学定員に満たない夜間定時制に比べて「高い入選倍率」、「低い中退率」、「広い地域らの応募者」、卒業者の約3割が大学・短大に進学している「進路状況」等々が、すでに開校した昼間定時制の現状として列挙されています。 まず言わなければならないのは、表題では「現状と課題」とあるのに、本文では昼間定時制独立校の現状について肯定的に簡単にふれているだけで、「課題」は全く記されていないという点です。これは、この「報告書」の偏った見方を明示するものです。夜間定時制についてあれ程指摘していた「部活動、生徒会活動、文化祭・体育祭等の学校行事が低調」「通常の教科指導以外の指導時間が不足」「全日制課程の高校に比べて、学校に対する地域住民の関心も薄く、交流も少ないため、地域の教育力を生かしにくい」などの「課題」が昼間定時制ではどのように克服、解消されているのか、全く触れられていません。
 無学年でホームルームもなく、個々の生徒が各々選択して授業を受講する学校は、確かに多様な授業展開が可能です。しかし生徒同士の交流、学校行事への求心力、生徒の積極的な関与や地域との関わり等に「課題」はないのでしょうか。また、しばしば聞かれる「カルチャーセンター」「単位の切り売り」といった指摘についても「報告書」では言及されていません。
 さらに、「報告書」は新宿山吹は「進学・自立志向の生徒」、チャレンジは「不登校の経験を持つ生徒」とことさら区別してみせますが、実際には「不登校」と「進学・自立志向」は重複しており、区別できません。そうやって無理に「特色化」した学校で「均質」な生徒を集めようとすること自体、「インクルーシブ」の理念に逆行しており、「効率化」は進んでも、多様な個性、立場の生徒が互いに切磋琢磨する機会に乏しく、問題です。
 また、「高い入選倍率」として、これらの学校の2001年度の数値を示しています(山吹で1.74倍、桐ヶ丘前期で3.48倍、泉前期で2.77倍--これは誤り--4.56倍が正しい)が、これらは開設当時の数値に比して2分の1~3分の1となっていること、今年度はさらに低下していることにはやはり、触れていません。こうしたタイプの学校であればこそ自分の進路が開けた、と感じる生徒がいることは確かですが、これらの学校に今後とも高い需要があるとは必ずしも思われません。「昼間定時制独立校へのニーズが高い」との断定は早計です。

◆「昼夜間定時制独立校の整備拡充」
三部制ではなく、地域に根ざした全・定併置の夜間定時制の存続を
 以上で見てきた、根拠に乏しい決めつけ、明らかな責任転嫁、「検討委員会報告」の名に値しない重大な論理構成上の欠陥を経て、「報告書」は初めから用意していた結論に辿り着きます。曰く、「以下の理由により昼夜間定時制独立校の整備拡充を図る必要性がある。」
 その理由とは、「夜間定時制の現状」のなかで「全日制課程の高校への進学を希望」している「不本意入学」の生徒が「相当の割合」としていたものが、ここでは「多くの夜間定時制課程に在籍する生徒が昼間部への高い通学意欲をもっており」と、生徒の希望の中身が都合良く変えられ、「新たなタイプの昼夜間定時制独立校の整備を図る。」「 昼夜間定時制独立校の設置に際しては、周辺の全・定併置の夜間定時制課程の解消を目指し、地域バランスを考慮して設置の促進に努める」と結論づけられます。これは驚くべき論理の飛躍です。生徒の「全日制課程の高校への進学」の希望を真摯に受け止め、それを保障しようとするのなら、就学計画を作り直し、地域の希望する全ての中学卒業生が入学できる、多くのインクルーシブな全日制高校を教育行政の責任において用意するべきで、現在の長引く不況のなかで、昼間就労せざるを得ない生徒など、さまざまな理由で夜間定時制を希望する生徒のためには、後に記すように問題の多い三部制の夜間としてではなく、自宅や職場から通学しやすいように、現在の全定併置の夜間定時制をそれぞれの地域に、一次、二次そして今回の第三次計画で統廃合の対象となった定時制も含め残すべきなのです。

今回の大幅な削減計画は多くの定時制空白区をうみだします
 6月27日に都が公表した今回の「新配置計画」は僅か5校の昼夜間定時制をつくるために29校の定時制・通信制をつぶすなど定時制・通信制33校を今後10年間で募集停止・廃校とするもので、このままでは1・2次計画と合わせ新宿、目黒、渋谷、練馬、北、中央、墨田、八王子などは夜間定時制が存在しなくなり、その他の地域の多くも1校の定時制が残るのみとなります。
千代田の「昼夜間定時制」が千代田、品川、文京、豊島、新宿にまたがる夜間定時制8校を「統合」し、杉並の「昼夜間定時制」が渋谷、中野、杉並、三鷹、武蔵野にまたがる夜間定時制6校を「統合」するなど、これらの広い地域で今後就学できない人々が大量に生ずることは明らかで、この「計画案」は教育行政の「計画」の名に値しない全く杜撰なものです。

夜間定時制の募集停止は多くの人々の学習権を侵害します
 「定時制高校白書2001」も指摘するように、定時制生徒にとって自宅、職場、学校がどれも30分以内になければ、「働きながら学ぶ」ことは困難なのです。昼夜間定時制独立校の設置に際し、今回の第三次改革案のように広範囲の全・定併置の夜間定時制を大幅に削減し、定時制の空白区さえ生み出すことで昼間就労する生徒をはじめほとんどの生徒は今以上に通学に時間がかかることになり、就学に計り知れぬ制約を課すことになります。これは学習権の侵害であり、東京弁護士会の勧告も定時制高校の「適正配置」として「今後、定時制高校生徒について通学距離・通学時間を自宅や職場から30分以内とするなど就学条件を確保すること」としているのです。

三部制は「最も安上がり」で、「制約」の多い学校です
  現在の夜間定時制で学ぶ生徒には小規模校の落ち着いたアットホームな雰囲気や、「報告書」も指摘する「授業が小人数で行われており、生徒に圧迫感がなく、授業が伸び伸びと受けられる」ことに価値を見い出している生徒が少なくありません。これらの生徒が40クラス、千人を超える規模の学校に適応できるでしょうか。三部制で教員が各部の授業を掛け持ちしながら果たして現在のようなひとりひとりの生徒にこまやか指導ができるのでしょうか。
  「一定の時間を区切って両課程の生徒が入れ替わる必要があるため、施設利用など、様々な面で、それぞれの教育活動が制約されている」と全定併置校については「課題」を掲げておきながら、「三部制」ではどのようにそういう「課題」をクリアーできるのか、全く触れられていません。
 常識的に考えて、「三部制」では部活や生徒会活動、学校行事の展開に施設、時間などの点で著しい制約があります。様々な無理を重ねる結果、夜間部の時間帯は現在の定時制よりさらに25分も遅く置かれています。午後9時25分に授業が終わって、夜間部の生徒はそれから部活、生徒会、教科外の学習等をせよ、というのでしょうか。
 三部制は一つの校舎、施設を三部が共有する点で施設の「有効利用」であり、三部制の内訳としてかりに4・4・2とすると、全日制では1学年4クラス160名のところで、同じ規模の校舎、施設で三部制では10クラス300名と、ほぼ倍の在籍数を保つことになります。これは、このところ教育庁の職員がよく口にする「投資対効果」の発想には一見合致していますが、実際には、代々木三部制のように新宿、渋谷などの地域で早朝から深夜にいたる多様な勤務時間帯で、さらに交代制の仕事に就労する生徒の切実なニーズに結びついたものでない限り、最も安上がりで、それぞれの部に在籍する生徒の側から見ると、学校施設、設備などをじっくり利用することも許されぬ、全く不十分な学習環境しか保障しない差別的な学校システムなのです。

「報告書」及び夜間定時制の募集停止計画の撤回を!
 この「報告書」には夜間定時制に集う生徒達に対して、何を一番保障しなければならないかという視点が欠けています。しかも「全定併置校の課題」が解消されるのは全日制のみであって、朝から夜まで授業が連続する三部制では、他の部の制約を受けることは免れません。全日制にしても際限なく放課後が続く可能性があります。つまり、全定併置の夜間定時制高校を一掃することが主眼なのです。そのために大規模な昼夜間定時制高校を造りますと、おざなりな「報告書」を示したに過ぎないのです。
 従って何度この「報告書」を読み返しても生徒の姿は見えてきません。一つの物差しで計れるかのような酷薄な理解しか伺えないのです。安定した生活を送っている夜間定時制の生徒がどれほどいるのか、考えることもなく「報告書」を纏め上げと思われます。中退率の高さはこうした面から考えることも大切です。教職員の働き方についても全く不問です。遮二無二働くのが当然ということでしょうか。生徒も教職員も不在のこのような学校改革の根底にあるのは「効率化」であり、多様な生徒が共に在る場を否定し、それぞれバラバラに分断して「序列化」しようとするものです。
 このような内容の「報告書」は断じて容認できません.今回の第三次「改革推進計画」案とともに強く撤回を求めるものです。

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