東京弁護士会「勧告」

東京都知事
  青 島 幸 男 殿

                                           東弁人第76号
                                           1998年3月23日
                                           東京弁護士会
                                           会長 掘野 紀

人権侵害救済申立事件について(勧告)

 当会は、申立人稲垣光江氏外の都立定時制高校統廃合に関する人権侵害救済申立事件について当会人権擁護委員会の調査に基づき、貴庁に対して勧告することと致しました。 つきましては、当会の勧告の趣旨が十分に教育行政に生かされるよう貴庁の特段の配慮を強く希望し、下記の通り勧告します。

勧告の趣旨
 定時制高校生徒の就学保障のため、以下の措置を取られるよう勧告します。

1、東京都教育委員会が1993年度から実施した「3年計画」による後記都立定時制高校9校の廃校及び同9校10学科の廃科による募集停止の措置について、生徒・保護者・教職員や地方自治体の意見を聴取し、再検討すること

2、今後、定時制高校生徒について通学距離・通学時間を自宅や職場から30分以内とするなど就学条件を確保すること

3、昭和53年度(1978年度)から実施している募集停止基準に戻すことを検討すること



勧告の理由
 憲法26条1項は「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と明文をもって子どもの教育を受ける権利=学習権を保障しております。
 憲法26条を受けて教育基本法3条1項は、能力に応じた教育の機会均等を保障し同2項で文部省び地方公共同体に対しで能力があるにもかかわらず経済的理由によって修学困難な者に対する奨学方法を講ずべきことを命じているほか、教育基本法10条2項は、教育行政について、「教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行わなければならない」と定めております。
 この国及び地方公共団体の条件整備義務の反面として、子どもの学習権は適正に配置された通学条件の良い学校に通う権利を含んでおります。
 ところで、東京都では、都立定時制高校の廃校・廃科の基準として昭和53年度(1978年度)から「2年連続で生徒数が5人以下の学校(学科)で、今後とも応募者の増える見込みが薄い場合」という基準を実施し、この基準が定着して来ました。ところが、東京都教育委員会が1993年度から実施した「3年計画」による都立定時制高校9校(豊多摩、竹早、京橋、本所、化学工業、駒場、南、白鶴、市ヶ谷商業)の廃校及び同9校10学科(市ヶ谷商業普通科、代々木普通科、小岩商業科、北豊島工業電気・電子科、蔵前工業機械科、電気科、赤羽商業普通科、農産普通科、東商業科、港工業機械料)の廃科では、単級学校を解消するという全く新しい基準による募集停止の措置が取られました。しかしながら、単級化の弊害として東京都が説明する「教員数が少ないために多様な生徒に対する授業展開が出来ないこと、生徒間に切磋琢磨の機会が少ないこと、学校行事などの教育活動が活発には出来ないこと」などは、教職員と生徒の努力などによつて克服することが十分に可能なものです。
 単級化を解消するために在校生や保護者・教職員などの意見を聴取することなく都立定時制高校の廃校・廃料を強行したことは、通学距離・通学時間などで勤労学生・全日制高校の中退者・中学生時代に登校拒否・不登校だった生徒・心身にハンディキャップを持った生徒、外国からの帰国子女・成年者の生徒など多様な生徒の通学可能な条件を奪って、将来の入学希望者の学習権を侵害するとともに募集停止による生徒数・教員数の低下などで在校生の教育条件をも低下させてその学習権を侵害するものと言わざるをえません。 よつて、廃校・廃科による募集停止の措置について再検討されるように勧告するとともに今後は生徒の学習権の侵害となるような定時制高校の廃校・廃科を行うことなく、昭和53年度(1978年度から)実施している募集停止に関する前述した基準を尊重するなどして定時制高校の就学保障のための条件整備に努められるよう勧告致します。

 以上の通り勧告致します。

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