私たちのめざす定時制教育 (※最終稿)


1.定時制高校検討委員会の性格−委員構成と非公開審議経過の問題

 都教委の検討委員会は定時制の教頭が名を連ねているだけで、現場の教職員は一人も参加していません。意見も求められていません。また、同委員会の審議は非公開で行われ、たった4ヶ月足らず、6回の会合で報告を出しています。このようなやり方で、戦後半世紀以上にわたって築かれてきた定時制を根本的に変える施策を打ち出すことは乱暴極まりません。

2.「定時制高校検討委員会報告」の持つ問題
 定時制高校検討委員会報告(以下、「報告」)の問題点の第一は「報告」正当化の手法の問題です。「生徒の多様化」や「不本意入学」など、既に70年代から起きてきた問題を、現在急速に進行し、早急な対応が必要であるかのような印象を植え付けようとしています。昭和40年の在籍者数ピークと比べて77.8%の生徒減などというのも、減少を強く印象付けるだけのものであり、昭和50年代以降はほぼ変わっていません。さらに都教委は定時制への中学3年生の志望率は「平成6年移行800人前後で推移している」とし、資料を添付していますが、この表を計算し直すと下グラフのように定時制志望率は明らかに増加しています。



 第二の問題は、「勤労青少年はごく少数」とし夜間定時制に行く必要はなくなったとしていますが、これには大卒フリーターが2割にも及び更に3年離職率が一貫して上昇傾向にある等の日本の雇用情勢など社会的背景があります。アルバイトをしている生徒は60%を越えており、こうした実態をあえて無視したものです。

 第三の問題は、生徒の学習権とも相まって充足率の問題です。都教委は昼間定時制独立校での「高い入選倍率」をあげ、夜間定時制の役割を相対的に低めようとしていますが、倍率があるということは落とされる生徒がいることであり、その生徒の学習権をどう保障するのか問われることにもなります。定員に余裕がある学校が各所に用意されていなければ、子どもたちの学習権を保障することはできません。定時制の充足率は下グラフで明らかなように高まっています。



 第四の問題は、「全日制課程との併置の弊害」を急浮上させていますが、97年の「長期計画」では課題の一つにあげられているだけです。99年に都議会では、当時の中島教育長も、学校を無くして解消するということではなく、「全定が話し合い調整する」と答えています。戦後の高等学校の成立過程からある「問題」であり、有名都立進学校がはなやかなな時代でも多くの学校では全定併置でした。

 第五の問題は、働きながら学ぶことの教育的意味です。「報告」は「新たなタイプの昼夜間定時制独立校」の「育てたい生徒像」で「正しい勤労観・職業観を身に付けた生徒」とし、「地域での勤労体験」等を単位として位置づけようとしています。にもかかわらず、夜間定時制の生徒のほとんどが現実に昼間働いているのであり、そのことの教育的意味を見ようとはしていません。


3.私たちのめざす定時制像について

(1)これまでの定時制部運動が築いてきた理念の再確認と実践的発展。
 定時制教育は戦後半世紀余りを経てその時々役割を変えつつ、現在も高校教育の最も困難な部分を引き受け大きな社会的役割を果たしてきています。先人たちから受け継いできた定時制教育の理念を、現在の状況に即して発展させることがまず必要です。

@一人も切り捨てない教育を推進する。
 単に退学者を出さないことだけでなく、生徒一人ひとりを大切にすることを前提とします。そのためには生徒の全体像を把握し、一人ひとりの困難と成長課題を把握した指導が必要です。1日の欠席も生徒によって意味は全く異なることは自明ですが、それを教育上位置づけることも必要になってきます。
 学習上のさまざまなハンディキャップを克服し、将来の主権者・生活者として必要な基礎的学力を修得させる授業・カリキュラムづくりがあらためて重要になっています。

A「働くことの教育的意味」を意図的に組織する。
 現在夜間定時制の生徒たちは、働きその対価として賃金を受け取ることで、自分の社会的存在意義を感じ、自信を回復して来ています。労働過程での周りの大人たちとの関係を通して成長の契機にもしています。また、仕事への責任や楽しさや辛さ将来の希望なども学んでいます。進路指導を含めて生徒の就労については学校がきちんと把握すること、地域に仕事を開拓することを含め教育上の位置づけを高めることが必要です。

B4年間のタイムスパンで生徒の成長を見る。
 生徒の成長を4年間という長い目で見ることは大切な視点です。また、単に卒業までの4年間だけではなく、若者たちが長いゆらぎの期間を経て職業的に自立していくまでの期間を何らかの形で見守っていくシステムを保護者や地域と共に担うことが必要になってきています。

Cインクルーシブな教育の内実を高める。
 定時制においては多様な生徒たちが異質な他者との出会い、関わりを持つこと、その関係性の中で成長しているのであって、そこに定時制教育の真価があるともいえます。

Dあらゆる工夫で生徒自治を発展させる。
 子どもの権利条約の観点からも、管理主義に走ることなく学校の秩序を維持し、どの生徒にも安全で居心地の良い居場所であり、学舎であるためには、生徒の自治的な活動の活性化が不可欠です。また、それが多様な生徒がその関係性の中で成長することを保障するものです。

(2)社会の変化へ対応した新しい課題

@労働法規や仕事に関する学習の位置づけと全生徒を対象とした進路指導の検討。
 日本的雇用慣行が急速に解体され横断的労働市場が形成されつつある中で、労働基準法やその他の労働法規をきちんと学習させることは急務になっています。また、職業に関する科目の重要性は普通科でも高まっており、高学年での選択科目の導入や「総合的な学習の時間」の活用などカリキュラムの工夫も必要です。
 同時に、従来の新卒時求人への対応だけではなく、地域に密着した就職先の開拓等が必要になっています。生徒の現在のアルバイト先の労働条件をチェックして不当労働行為や労災などから守ることもあらためて課題にしていく必要があります。

A「三修制」「外部単位認定」などの実践的検討。
 生徒の就学実態とともに、生徒・保護者の要求や基礎的な学力保障等の視点からその教育的位置づけについて実践的に検討を引き続き深めていく必要があります。

B生活保護世帯の生徒などへの支援の強化。
 深刻な不況が長びく中で生活困難な家庭の生徒たちは確実に増えています。卒業後専門学校に入りたくても入学金等の制約で断念する場合も少なくありません。現代の貧困はこれから更に大きな問題になっていくでしょう。夜間定時制は本来こうした生徒のためにつくられてきた経緯からも、定時制の教員が声を上げることから出発する必要があります。

4.定時制の教育条件の改善

@20人学級の実現は急務になっています。制度の実現をめざしつつも、当面、多展開授業や能編クラス等工夫を凝らして近づける努力も必要です。

A教員定数を見直させ、取りあえず定時制1クラス2名配置を実現させることが必要です。

B教員の自主研修権を保障させることが必要です。服務監査や長期休業中の研修権の剥奪では、教員の自主的で創造的な学校教育はつくり得ません。

C定時制の給食制度は教育上どうしても必要であり、グループ方式をやめ自校方式に戻すことが大事です。


「私たちのめざす都立高校」提言 都立高校ビジョン検討委員会 より
2002年10月 東京都高等学校教職員組合

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